もの置き

てきとうに色々書きます

デュエル・マスターズの対戦についての文章

 ふわっ、と浮き上がるような感触に包まれて、それが抜けるころには俺は俺が戦場に立っているとわかった。両足はしっかりと地についているのにどうにも夢見心地で、隣に可愛い女の子(ちょっと爬虫類っぽいところがチャームポイントだと思うんだ)がいるのもいまひとつ現実味ってもんがない。それでも戦場に立っているからには戦うのが男の……いや、こんな少女だって同じ舞台に上がっているんだからその言い方はないか。戦場に立つからには戦うのが、ここにいるすべてのヤツの矜持ってなもんだろう。

 

 俺は武器を扱うのが得意で、武装さえあればその範疇ってことで要塞や城だって呼び出してみせた。だが、その子ーー肩と胸に星の意匠が輝いているから、星子と呼ぼうーーが言うには、なんでも彼女も俺が呼び寄せたらしい。どうにもこの身に覚えはないが、これも修練の成果なのだろうか。そうだったら、故郷を出て未知なる大陸まで乗り込んだ甲斐もあるってもんだ。星子はぶつくさ文句を言っていたが、何やら魔法を唱えると虹色にかがやくベールの内側にその身を隠した。おっと、俺もマントを羽織って襲撃に備えないとな。淡く銀河色にかがやくマントはその姿を敵の視線から覆い隠してくれる。じっと見られているとだんだん効果が薄くなるからずっと頼りに出来るわけじゃないが、呼び出す武器によっては身を隠したまま一方的に攻めかかることもできてけっこう便利だ。

 

 そうこうしていると、向こうの方に俺と似たような背格好で俺と似たような衣装を着た、俺と似たような顔つきの男が立っているのがみえる。つまりは俺だ。どういうわけか、この戦場で戦う相手の中には「俺」が混じっていることがある。一度や二度じゃない。何度も、何度も、何度もだ。俺は俺を見ると「俺だな」と思うし、たぶん向こうの俺も俺を見て「俺だな」と思っているんだと思う。だいたいはなんか変な表情をしているんだが、あれははじめて訪れる森でドングリを集めているリスを見たときに旧い友達のことを思い出してるときの俺の表情にそっくりだから。でも、その俺は俺であって俺じゃない。違う俺なんだ。それだけは確かにわかっていて、幾度となく戦った「俺」たちもほとんどがそれぞれに違う俺だった。なんか、ちょっとずつ違うんだよな。戦い方が違ったり、持ってくる武器が違ったり、一緒に戦っている仲間の顔ぶれが違ったりする。でも、あの俺も本気で戦いに来て、勝ちに来てるんだぜってことは痛いぐらいにわかるから、俺は必ず全身全霊で迎え撃つことにしてるんだ。だって、あれは俺だろ? 俺なら、そうされた方が嬉しいに決まってるからな。

 

 そんなわけで、向こうの俺はまず落ち着ける拠点を呼び出してくる。あそこには無数のドラゴンが控えていて、次から次へと矢継ぎ早にドラゴンが襲いかかってくるんだ。でも、それは俺にとっては意外な選択で、てっきりどの「俺」もお気に入りだった1本で突っ込んでくるもんだとばかり思って身構えていたのだが、隣で星子がむにゃむにゃと魔法を唱えると向こうの俺の身体に時間の鎖が絡み付いて、動きを束縛している。もちろん突っ込んでくる気もなかったのだから、あいつはあいつでされるがままだ。なるほど、この魔法があるからあいつは突っ込んでこなかったのか。いいね。頼りになる仲間は数百の武器にも勝る。「噛みつくなよ相棒、嫉妬か? もうすぐお前の出番だから待ってろって」次元の向こうから頭に響いてきた悪罵に軽口を返して、俺はじっくりと相手の姿を観察する。今回は俺が先に攻める役どころだ。

 

 わーわーとわめく相棒のご要望に応えて「お気に入り」を担いだところで、戦場に新たな仲間が呼び出される。青と緑のコントラストが印象的な龍(ヤツ)だ。妙に頭がスッキリして、可能性をより広く見られるようになった感覚。そのまま景気付けにまずは一当て……するも、増員はやってこない。このお気に入りは仲間を呼び寄せるのが得意技なのだが、とんでもない怪物が出てくることもあれば、なんにも出てこないこともある、気分屋なやつなのだ。愛すべきじゃじゃ馬に次は頼むぜ、と声を掛けると、フンと鼻を鳴らして流される。まあ、なんだ。悪くないやつなんだよ本当に。

 

 今度は向こう、負けじとこちらも、と数度剣戟を交わしあうも、一向に決定打が見えない。若干こっちが優勢だが、相手に何かツキが回れば一瞬でひっくり返される、油断ならない状況だ。

 

 次の一手に思いを巡らせていると、だんまりだった星子がぽつりとこぼす。

 

「何を焦っているのかしら?」

 

 焦っている。そうか、俺は焦っているのか。決定打が訪れないことに? いや、そんなことはこれまで何度でもあった。今さら焦るようなことじゃない。じゃあ、何に? わからない。でも、俺が俺であるために必要ななにかがぽっかりと抜け落ちているような心持ちが、ここに呼び出されたときからずっと俺をせっついている。ような気がする。

 

 思えば、さっきから相対する俺と刃を交えても、考えているのはそのことばかりなのだ。わからないのだから、考える意味もないのに、「わからない」という事実そのものが無性に腹立たしい。なにかを求めていることだけは確かだが、何を求めているのかは一向にわからない。なんでわからないんだよ俺、と俺のなかの俺が理不尽にブチギレてくる。知るかよ、要するにそれはたぶん「選択肢にない」んだろ。だから俺は祈るしかない。来てくれよ。今の俺が知らない「何か」。

 

 そんで、その瞬間ってのは皆が思うよりあっけなく、本当にしれっと訪れるもんなんだ。何ひとつ劇的なことはなく。他の「選択肢」と同じように。

 

 俺はなにかに確信を持ったみたいに、いちばん新しく手に入れた武器を手に掴んだ。水しぶきが激流となって、「向こう側の星子」を押し流す。その直後。

 

 アイラが俺を呼ぶ声が、戦場に響く。

 

 ああ、そうだ。

 

 俺はお前が助けを求めてくれるのを、ずっとずっと待っていた。焦りはすっとなくなって、ひどく穏やかで、暖かい気持ちがこんこんとわき出てくる。

 

 その声を聞くと、俺はあっというまに夢見心地になる。他の何もかもが相手にならないぐらい、胸の奥底から力が溢れ出す。次元の向こうから相棒たちが俺の呼び掛けに応える。3本、普段は持ちきれないそれらも、今なら全部受け止められた。愛があれば、俺は無敵だ。

 

 一振り、二振り。一振りごとに2人の仲間が戦場へと乱入してきて、向こうの俺は一瞬にして反撃の術を失う。そのままの勢いで懐へと駆け抜け、俺は「俺」を切り裂いた。

 

 きっとあいつも、ずっと愛を探していたんだろう。俺はたまさか愛に気付けた。あいつは間に合わなかった。だから、今回は俺が勝った。俺の方が強かったから勝てたなんてとうてい思えるわけもないが、それでも今は、「愛が勝った」という物語(サーガ)があれば、それで十分なのだ。