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誰得ブログシリーズ:私立百合大学の過去問を検討する回

 私立百合大学の入試過去問の一部が公開された。この年は論述式が中心であった例年の傾向とは異なり、選択式の設問を多く含むようになったことで多くの受験者が苦戦し、大きな物議を醸した年でもある。

 本記事ではそのうちの一問について、選択式設問のセオリーに触れつつ各選択肢を検討していく。

 (※言うまでもありませんがジョーク記事です。客観的であるかのような記述がなされていますがこの記事内で語られていることは筆者の個人的な見解であり、実際の正答は皆さんの内なる萌えにあることをあらかじめご了承ください)


 一般に選択式の設問は論述式の設問よりも簡単だと捉えられがちではあるが、こと百合という教科においては一概に言い切れないのが実情だ。

 最大の差異は、論述式の設問は要点を押さえていれば部分点が配られるのに対し、選択式の設問は途中までの論理展開が正しかろうと選択肢を誤って仕舞えば1点も得られないところだ。

 その分1問のあたりの配点は少なくなる傾向にあるが、明確な根拠を示しづらい百合においてはシビアな差として表れる。

 しかし、受験生諸君には忘れないでいただきたいが、これは学問としての百合ではなく受験百合である。必ず問題文の中に設問者の意図が隠されており、誘導に乗ることで正しく答えを導き出すことができるように構成されている。

 設問の意図を汲み取ることは選択・記述問わず重要な技術であるが、こと選択式においてはもっとも大事なことであると念頭に置いておこう。

 単なる百合への知識や勉強量、熱意だけではなく、与えられた資料から正しい情報を読解することもまた、百合においては重要なのだ。

 以上のことを踏まえた上で、各選択肢の個別検討に移る。

各選択肢の検討

①A:円満 B:劣悪

 2人の表面上の立場をそのまま反映したものので、この設問の中では一番ひねりがないものだと言える。

 大衆百合においても決して少なくないCPで、特に古典百合において多く見られた類型である。

 多くの場合で「何らかの個性的な特技や魅力を持つBに強い愛情を抱くA」・「積極的なアプローチを仕掛けるAに嫉妬・恐怖・戸惑い・親愛など複数の感情を持つB」という相関図を取る。

 余談ではあるが、数学における補助線と同等に、簡易な相関図を作成することは百合においてポピュラーなテクニックである。まずは出題された例文を元に、お互いの感情を整理することが正答への一番の近道だ。

 特に三角関係・百合ハーレムなどの科目においては主たるCPではない二者の関係性について問われることも多い。日頃から百合に触れる際に相関図を作成する癖をつけておくと、本番で他の受験生と差をつけられることだろう。

 閑話休題

 伝統的なCPの一つである①ではあるが、ここで重要なのはこの二人は現段階で既に「隠れた恋仲である」と明記されている点、そして本設問は「その前提下でもっとも興奮する」CPを問われている点だ。

 先述の通り、このCPの要旨はA-B間における感情の不均衡であり、Bの内心の複雑さが恋愛感情へと変化する過程を最大の興奮とするCPである。興奮臨界点を既に通過している以上、他のCPを上回って興奮するCPであるとは到底言いがたい。

 本設問の前提にそぐわないため、選択肢①は不適と言えるだろう。

②A:劣悪 B:円満

 平成後期から増加し、現在では最大母数となっている、いわゆる「反転シチュ」。

 読者の萌えを誘発するうえでもっとも重要なことはギャップである、というのは、百合基礎で誰もが習うことだろう。ある意味では現代百合の基本にもっとも忠実なシチュエーションであると言える。

 このCPは代入する属性により複数の相関図を取るため一概に分類しがたいが、多くの場合は

⑴「内心で苦しみながらも『皆に愛される自分』を演じてどうにか学内で自らの居場所を確保するAと、何らかのきっかけでAの家庭環境の悪さを知り、Aに手を差し伸べようとするB」

⑵「AとBはそもそも幼馴染であり、中学・高校への進学とともに友人付き合いの観点から疎遠になったが、水面下で交際を続ける」

 という2つのパターンに分類される。

 このうち、⑵は家庭環境の好悪が前提に含まれておらず、あくまで副次的な効果を生み出すに留まる。設問の意図に反するため、検討から除外してよいだろう。

 ⑴についてより詳細に検討する。

 このCPにおいては、ちょうど①と感情のベクトルが逆転する。

 特に主眼に置かれるのはAの感情、すなわち「学校内での立場が弱いにもかかわらず自分の求めるものを初めから全て持っているBに対する、Aの嫉妬と憎悪」だ。

 「内心で苦しみながら『自分』を演じる」と記述したように、このCPにおけるAは、ほとんどの場合で「可能であれば演技などしたくはない」。劣悪で安らげる家庭環境ではないからこそ、学内に居場所を求めるのだ。

 決して皆から好かれてはいないにもかかわらず、泰然とあるがままの自分を貫けるBに対して、いかにして好感情を得られようか。

 そのAに対する純真無垢なBの健気なアプローチが、大きな興奮点の一つであるといえる。

 勘のいい受験生諸君はお気付きかと思うが、このCPには重大な問題がある。①の関係性をちょうど反転させた形であるため、興奮臨界点の位置が基本的に①と同じなのだ。

 そのため、①と近しい理由で設問にはそぐわず、不適。

 ただし、Bが純粋な善意で手を差し伸べているという前提を廃し、「BがAを精神・金銭の両要素において全面的に支援し、事実上支配する」という類型を取るCPの場合は、この限りでない。

 問題文に書かれている事実の範囲を逸脱しているためひとまず除外するが、「家庭環境」という設問の前提から展開できる論理ではあるため、他の選択肢がどれも不適であれば再度検討してもよいだろう。

 ちなみに、①において近しい設定を取るCPが存在するが、この場合はBが何らかの形でAの弱みを握らなければ精神的な支配が成立しえない。これは設問の前提からは大きく離れてしまうため、検討には値しない。

A:円満 B:円満

 稀有だが、実例は存在するCP。展開の作成が難しく、物語性よりもシチュ萌えや会話劇を重視した作品にて多く見られる。

 また、忘れがちではあるがお嬢様学校を舞台にする作品の場合はほぼ例外なくこの類型に分類できるだろう。お嬢様学校に通っている人間の家庭環境が劣悪である場合には、それなりの理由付けが必要だ(百合の範囲からは離れるが、「花より男子神尾葉子,1992-2004)」が好例)。

 このCPにおいては、特にBの心情にスポットが当たる場合が多く、また、他のCPでは軽視されやすい「いじめ未満だが明らかに浮いている」というシチュエーションが活きてくる。

 家庭環境に語るべき問題がないからこそ、バックボーンよりも「学校で浮いているという事実を家族に相談しづらい」という展開が重視され、そこから「学校においてもっとも信頼のおける他者としてのA」との関係性へと派生させやすいのだ。

 お互いの感情に「不信」レベルの大きな不均衡が発生しづらいため、①・②と違って「隠れた恋仲である」という設定を踏まえたうえで興奮臨界点を設計できるため、有力な選択肢の一つだと言える。

 ただし、あくまでも「そうすることができる」というレベルに留まるため、明確に「適している」と言えるものではない点には留意が必要だ。

 これは、このCPにシチュ萌え・会話劇を重視した作品に多いことからも読み取れるだろう。物語性の高い作品は感情(=両者の関係性)の推移を主眼としているのに対して、シチュ萌え・会話劇作品は純粋に設定や掛け合いに対する「萌え」を主眼としているため、障害なくお互いに好き合った状態から始めやすいし、その方が話も早い。

 また、本講座の受講生からは異なる観点としてこのような回答も寄せられた。

 関係性論・物語類型論の観点ではなく、シチュエーション設定論からのアプローチを試みた回答であり、非常に秀逸。

 あくまで個人的な見解であるが、論述式であれば高得点を期待できたであろう優れた回答であっただけに、均一化された選択式設問の問題点が改めて浮き彫りになったように感じられる。

A:劣悪 B:劣悪

 多くもなく少なくもない、数としては中間やや下位に位置するCP。

 このCPは、お互いに感情の不均衡がないにも関わらず、非常に強い物語性と社会性を孕んでいる。少し異なる立場でありながら、強烈な仲間意識がAとBを結びつけており、手を取り合って世界への叛逆を試みるか、あるいはここではないどこかへと逃げる物語が一般的だろう。その特性上陰鬱かつ破滅的な結末になりやすいCPだ。

 設問の選択肢として検討していこう。

 このCPの主眼は「お互いへの深い依存」にある。

 Bは、わかりやすく物理的な。Aは、表面的には見えづらいものの、無理な付き合いを続けることで生じた違和感からなる。異なる種類の孤独を抱えた2人は、感情、時間、秘密、ありとあらゆることを共有し合うことで精神的安定を測る。

 「表面上は差異があるものの本質的に抱えているものが同じ」であることが、このCPをCPたらしめている所以だ。

 そして、お互いへの依存性が高いことは、そのまま「隠れた恋仲であること」に直結する。CPの主眼が前提となる設定と非常に密接に関わっており、物語の開始時点から前提を満たしているため興奮臨界点の位置にも問題がない。

 総合的に見て、この設問の意図に非常に適した選択肢。よって、正答は④となる。

まとめ

 選択式設問でありながら大問1つ分・配点15点という破格の設問であっただけに非常に難解。今後もこの傾向が続くのであれば対策は必須になるだろう。

 繰り返しになるが、受験百合は問題文を正確に読み取り、その範囲から逸脱しないように各選択肢を検討していくのがもっとも重要だ。まずは事実と自分の中の萌えを切り分け、客観的に論述することから始めよう。

 百合は一日にして成らず、である。受験生諸君の健闘を祈っている。