もの置き

てきとうに色々書きます

【デュエマ】神トラ調整録・GP9th篇 〜「神」に最も近かったヤドネ〜

 その瞬間、私は神に手が届いたと思った。その日「彼」が調整用のmastodonインスタンスに投下したのは、vaultのデッキビルダーのスクリーンショットだ。何の飾り気もない、無機質にカード名を並べ立てただけのスクリーンショット。しかしその味気ない文字列からさえも溢れる、圧倒的に洗練された美しさ。このリストを手にするからには負けはない。負けは許されない。掛け値なしにそう感じた。

 だが、迎えた10月5日のGP9th。私が決勝トーナメントの舞台に立つ事は無かった。

 リストが悪かったのか? そうだとは言い切れない。

 プレイヤーが悪かったのか? その側面は大いにあるだろうが、それだけとも言い切れない。

 引きが悪かったのか? 引けないのは構築が悪いか、そこまでのプレイが悪かったかのどちらかだ。対戦相手に理不尽なぶん回りを喰らったわけでもない私には、口が裂けてもそんな事は言えない。

 結局のところ、全てが少しずつ足りなかったのだろう。神になるはずだった私は、命からがら8回戦までを戦い抜いたのち、失意のうちにGPの戦場から去った。

 ところがどうした。準々決勝で。準決勝で。決勝で。私達が目指したあの舞台で、戦っているこのデッキは、いったい何だ。

 彼らは勝った。そして神になった。私は、私達は、神になれなかった。


 勝負の世界に「たられば」は存在しない。結果だけが全てだ。しかし、だからこそ、私はここにこうしてひとつの「結果」を記そうと思う。

 これは最も神に近づき、しかし神になれなかった男たちの物語である。

「ペトリコール」

1 x セイレーン・コンチェルト
4 x ア・ストラ・センサー
3 x エマージェンシー・タイフーン
4 x ブラッディ・タイフーン
3 x 「世界をつなぐ柱」の天罰
1 x スパイラル・ゲート
3 x サイバー・チューン
3 x 機術士ディール/「本日のラッキーナンバー!」
2 x 次元の嵐 スコーラー
4 x 魔導管理室 カリヤドネ/ハーミット・サークル
2 x 凶鬼90号 ゾレーゴ/「大当たり!もう一本!!」
4 x ブラッディ・クロス
4 x 悪魔の契約
2 x ライク・ア・ローリング・ストーム






 それは忘れもしない、8月中旬のことだ。

 
mstdn.jp

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 私達の神への挑戦は、この2つのトゥートによって始まった。
 このデッキの大枠をチューンしたのは、もっぱらこのトゥートを持ち込んできたそぉい(@Fai_ry_BIue)氏だ。はじめに彼が持ち込んで来たリストは以下のようなものであった。

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 最初に引用したトゥートにある通り、そもそもこのデッキは「カリヤドネを2、3体並べて一本スコーラーでExターン2回とってナンバー絡めて殴れば勝ち!w」という極めてシンプルなものだった。ひとまずvaultでの解禁がまだであったために調整は氏の一人回し感想報告を基とした文字でのやり取りのみであった。vaultでの使用が解禁されたのは翌日のことであっただろうか。その日の昼、彼はとある可能性に気付いた。

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 最初にこのカードが入ったときは、キルターンを早めることができるというその程度の認識でしかなかった。実際にブラッディクロスは凄かった。手札枚数を維持出来ない不安定さを加味しても、彼を介した際のカリヤドネ着地速度は異常に速くなった。そこにラキナンによる妨害と悪魔の契約による大量ドローが絡むと、このデッキの暴力性はもはや手がつけられない領域に達していた。vaultでカリヤドネが解禁された初夜、私達はカリヤドネを試運転し、そして一瞬で虜になった。

 はじめに気がついたのは、確か私だったと思う。

「これ、うまいことやったらブラッディクロスループして勝てません?」

 その対戦で、カリヤドネの対面としてネクストを回していた私は、そぉい氏にそう声を掛けた。
 結局その対戦中はループを詰め切れず、「なんか回りそうだね」という話をしながら、しどろもどろな手つきで適当にブラッディクロスを連打されて山を枯らされた。その時にはもう早朝の4時で、頭も疲れていたので、「適当なことを言って徒労させてしまったかもなあ。悪い事をしたなあ」と思いながら、私は眠りに就いた。

 その翌朝のことである。朝起きた私が、Mastodonを確認すると、

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 ループが出来上がっていた。

 こうして私達のチーム「神トラ」(というかそぉいさん)が組み上げたカリヤドネ、通称「神ヤドネ」は、「最速4ターン、安定5ターンで相手の山を全て削りきれる、サブプランとして青いマナの数だけナンバー連発+大量展開による殴り切りを搭載したループコンボデッキ」となったのである。

 ループ完成後の基盤となったのがこのデッキだ。

「ペトリコール(初期型)」

1 x セイレーン・コンチェルト
4 x ア・ストラ・センサー
3 x エマージェンシー・タイフーン
4 x ブラッディ・タイフーン
3 x 「世界を繋ぐ柱」の天罰
1 x スパイラル・ゲート
3 x サイバー・チューン
3 x 機術士ディール/「本日のラッキーナンバー!」
3 x 次元の嵐 スコーラー
4 x 魔導管理室 カリヤドネ/ハーミット・サークル
3 x 凶鬼90号 ゾレーゴ/「大当たり!もう一本!!」
4 x ブラッディ・クロス
4 x 悪魔の契約


 見てお分かりだろうが、ライク・ア・ローリング・ストームを新たに2枚採用した以外は現在の形ほぼそのままである。これが完成したのが8月20日。カリヤドネを調整しはじめてから、3日後のことである。

 一瞬でこの型に辿り着く事が出来たのは、そぉい氏のひらめきもあり、私のひらめきも手伝ったが、何よりも運が良かったのだと思う。おそらく、ループからカリヤドネの定義を始めていたとしたら、私達がこれほどまでに素早くこの型に至る事はなかった。ループの安定という側面だけを見ると無駄なパーツが多すぎるのである。一本も、スコーラーも、ディールも、ヤドネを出すのに直接的に寄与をしない。ループさせたいだけであったら、ここを排除するという選択肢もあっただろう。
 しかし、最初に「並べて殴る」というプランからスタートしたがゆえに、私達は知っていた。一本やスコーラーが多少入ったところで4ターン目、5ターン目のヤドネ着地率はさほど大きく変わらないことを。ディールの存在は邪魔等ではなく、相手の展開をことごとく潰し、先回りして墓地対策を封じる事が出来る最強のカードであることを。
 そして何より、一本スコーラーが決まってしまえば、もはやほとんど労する事無くループを確定させることができることを。

 そもそも一本が無い状態でヤドネのループを確定させるのは相応に要求値が高い。山を削る速度も遅いし、動きの柔軟性にも欠ける。一度でも一本ヤドネの味を知ってしまうと一本のなかったころのヤドネには戻れないと、ここで断言しておこう。このデッキの出力を担保しているのは、間違いなく「大当たり!もう一本!!」だ。

 ありとあらゆる運が私達を助けた。「世界をつなぐ柱」の天罰は、私達の見つけ出したひとつの結論で、私達が地に叩き落とされた今でも、この3枚の選択については私達のリストが絶対に最も優れていると思っている。採用理由の詳細については作成者であるそぉい氏が伏せておきたいらしいので、来るべき時が来るまでは私も語らないでおこう。

 素早くこのリストが完成した事による恩恵は計り知れなかった。残りの時間を全て対面練習に割けるので、無限にプレイを詰めることができた。そぉい氏がその役割を主に担当しチームメイト3人にフィードバック。残りの人員はそぉい氏の対面を回す係をやったり、環境の遷移を研究して「この環境でヤドネはどの程度勝てそうか・寄せるならどんなカードを採用するか」を考察する係をやったりした(私の連載シリーズ、「週間!メタゲーム・ウォッチング」はその副産物であった)。

 入念な対面練習の結果、「本日のラッキーナンバー!」のロックが、ブラッディ・クロスの圧倒的墓地加速が、全てをひっくり返す悪魔の契約が、これらのカードの存在によって、あらゆるデッキに対してプレイ次第で勝ち筋を作る事が出来ると分かったのだ。

 墓地対策1枚で何も出来なくなる? 手札にブラッディ・クロスを2、3貯めておけば容易に取り返すことができる。コンボ直前のジャミング・チャフ? さらにその直前にラッキーナンバー指定「5」で返す事が可能だ。なるほど、ハンドのキーパーツが落とされてしまったと。センサー+悪魔の契約で6枚ほど山札を掘れば、解決札は見つからないかい?

 そしてコンボ成立のためにルーターを撃ち続けるだけで、これらのプランは比較的容易に達成可能なのだ。対面に合わせて欲しいカードを探してくるだけでいい。何も無ければそのまま勝つし、なにかあるなら先ほど言ったような対策を打ち込む事が出来る。これがカリヤドネループ最大の強みだ。


 しかしながら。私達はデッキが強すぎるあまりに、その強さを過信してしまった。
「変に出力落とさなくとも、プレイで勝てるし……」
 そう、思ってしまった。
 困った事に、練習の上では実際勝ててしまうのだ。こちらがかなりヤドネ対策に寄せたプレイをしてもデッキが強すぎて勝ててしまう。

 どうしても苦手な対面で、シータミッツァイル溢れる環境ではあまり出て来ないだろうと予測していた赤単速攻には目をつぶり、それ以外の対面全てをプレイで解決しようとしてしまった。

 思うに、私達が神になれなかった理由はそこなのだろう。私達はデッキの強さを過信し、軸をずらした構築を試そうとしなかった。立ち止まってしまったのだ。

 安定感は確かに高く見えるが、先述のように対面次第でプレイを歪める必要があるという点において、カリヤドネは「ぶれる」デッキである。特に悪魔の契約はマナを削ってしまう性質上非常にリスクが大きく、不可能を可能にするが可能を不可能にしてしまうこともあるカードだった。全部抜く事はないかもしれないが、少なくとも本当に4枚フル採用するべきかは考える部分があっただろう。

 受けの枠にしてもそうだ。私達は「呪文のクロック」を探し求めたが、ついぞ見つけることはできなかった。いくつか考えられる候補も試したが、どれもしっくりこなかった。結局、勝てる対面を落とすぐらいなら、ということで受け枠を最小限まで削り、確実に勝てる対面を拾おうとした。しかし、速度を重視するあまり「ロングゲームを見据える」という発想に欠けていたのは間違いない。手打ちもさほど苦しくなく、相手のラキナンやシャッフによる指定をほぼ間違いなく躱し、赤単などの強烈なアグロにも一度踏ませれば勝ちを狙える、そんな都合のいいカード、あるわけがないと、少なくとも私は思い込もうとしていた。
 しかし、それこそが思考の停止だった。

 決勝戦で赤単ブランドの猛攻を撥ね付ける知識と流転と時空の決断2枚トリガーを見ながら、私はそれを理解した。させられた、というほうが正しいのだろう。


 実際のところ、byeも持たず、「神トラ」以外のチームにも所属していなかった私達にとって、この選択はひとつの正解であったのかもしれない。この構築が私達にとっての限界で、私達は神になれない運命だったのかもしれない。
 勝負の世界に「たられば」は存在しない。結果だけが全てだ。だから、これは誰にも顧みられるべきでないチラシの裏の独り言である。それでも私は、こう呟かずにはいられないのだ。

 「もっと頑張っていれば、僕が神になれたかもしれないのに」と。


 このデッキの詳細な解説は、そぉい氏がnoteにまとめてくれるはずなので、この場では割愛させていただこうと思う。

 たとえ私が失意の淵に沈もうと、デュエル・マスターズは終わらない。
 だから私はおそらく、これからもデッキを作り続けるだろう。環境をつぶさに見つめ続けるだろう。いつか神に手が届く日を夢見て。